平成22年度 親委員会活動報告

地下空間研究委員会
                              幹事長 酒井 喜市郎

 本委員会は,平成6年度に土木学会に常設されて以来,地下空間利用における人間中心の視点に立ち,“地下空間学”の創造をめざす研究活動を行ってきました.その活動領域は,土木工学のみならず,都市計画,建築,法律,医学,心理学,福祉さらには芸術の分野にまで及んでいます.
 本委員会には「計画小委員会」「防災小委員会」「心理小委員会」「維持管理小委員会」の4つの小委員会を設置しています.各小委員会では親委員会で方向付けられた共通のテーマに基づいた活動計画を定め,その計画に基づき研究活動を精力的に行っています.また毎年初めに実施している地下空間シンポジウムを企画運営する「地下空間シンポジウム実行委員会」,土木学会論文集に掲載する論文を審査する「論文・報告集編集委員会」を別途設置しています.「地下空間シンポジウム」は今年で16回を数え,最新の地下に関する話題をテーマに,様々な分野の方々からの話題提供や論文発表を実施しています.
 また毎年行われている土木学会年次講演会では,研究討論会や共通セッションなどを通じて,広く委員会外の方々とも論文発表ならびに意見交換や討論を行っています.さらに地下に関連した災害,重大事件・事故への迅速な対応と,それに関する討論,報告書作成並びに公表,各団体からの受託研究への対応,さらにはテレビ局,出版社などのマスメディアへの積極的な協力を通じて,地下空間に関する様々な事柄を広く社会に発信しています.平成22 年度は第5 期の最終年であり,各小委員会とも活動計画で示した研究の最終成果の取りまとめ,次期研究の方向付けなどを積極的に実施しています.その研究も土木学会内部の活動に留まらず,各種団体が企画する研究助成への積極的な応募を通じ,幅広い研究活動を展開しています.
 今年度に実施した主な行事として,8 月には平成19 年度より毎年実施している,「街の地底探検 ~感じる 考える 地下空間利用~」をテーマとする第4 回「夏休み親子見学会」を東京で開催しました.この見学会は将来を担う小学生を対象とし,実際の地下の見学を通じて地下空間を肌で感じてもらった後,地下空間の利便性,問題点を洗い出し,地下空間が将来どのようになってほしいのかをクイズ形式で考えてもらう,参加型の見学会の形式を取っています.参加した小学生には「こども地下空間博士」認定証を贈り,将来にわたり幅広く地下空間への関心を持ち続けてもらいたいと思います.今後もこの活動は,その他の普及活動と共に委員会全体で取り組んで行きたいと考えております.
 9 月に開催された平成22 年度土木学会全国大会年次講演会においては,本委員会主催で研究討論会並びに共通セッションを実施しました.研究討論会では「時代が求める地下空間利用のあり方」をテーマに,札幌並びにその他主要都市の事例を踏まえ,地方中枢都市における地下空間利用の意義・課題及び地下空間活用方法,利便性向上への期待などの話題提供を頂き,それらを参考に計画,防災,心理,維持管理といった多様な観点から地下空間に関わる技術の今後検討すべき点について議論しました.共通セッションでは「地下空間の多角的利用」をテーマに17 編の発表がなされ,活発な意見交換がなされました.地下空間研究委員会の設置から既に15 年が経過しましたが,その間わが国の地下空間利用を取り巻く環境は大きく変わってきています.いわゆる「大深度法」の成立や地下街に関する規制の緩和などが進み,各種の都市問題解決のために地下空間が果たしてきた役割は非常に大きいといえます.
 一方,地震時における地下空間の構造的安全性が高いことについて一般市民の認知が不十分であり,それにより発生が予想される無用な避難やパニックへの対策と啓蒙の必要性,火災や浸水・水没に対する防止策と適切な避難誘導策と被害軽減策の必要性など,地下空間利用に際して対応すべき課題は未だ多い状況です.
 また昨今の国際化の流れ中で,我が国の持つ地下空間に関わる諸技術の国際社会への貢献、海外事例を参考に国内の地下空間をどのように展開していくかなど,今回のシンポジウムのテーマでもある「世界に挑む日本の技術 ~成長戦略と地下技術との関わり~」をさらに深く探求する必要があります.
 本委員会は,今後とも安全・安心・快適な地下空間づくりを目指すとともに,地下空間の有用性を説くべく,新たな視点で研究を進めてゆく所存でございます.皆様方におかれましても,これまで以上に委員会活動への積極的な参加とご支援を賜りますようよろしくお願いします.

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